心カテを愛する循環器内科部長が、
COVID-19にチームで立ち向かう!

社会医療法人三栄会 ツカザキ病院循環器内科主任部長の楠山貴教先生は、心血管カテーテル治療を主軸に数々の循環器疾患の治療の責任者でありつつ、 同院の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)チームを立ち上げ、その診療の先頭に立たれています。COVID-19診療立ち上げのあらまし、そこでのPOCT 対応クレアチニン分析装置「スタットセンサーエクスプレスiクレアチニン(以下エクスプレスi )」の役割、そして、心カテ治療からCOV ID -19治療まで、 現場をリードする大変な役割を果たす中で抱いてきた想いを伺いました。

(取材日:2022年12月)

社会医療法人三栄会 ツカザキ病院

循環器内科主任部長

楠山 貴教 先生

地域の急性期医療と救急医療の中核を目指すツカザキ病院

当院は兵庫県姫路市にある、地域の急性期医療と救急医療の中核を目指す基幹病院です。病床数*は406床(うち一般病棟(DPC)322床)*2023年2月時点。
高度な技術を用いた画像ガイド下での低侵襲治療も重点領域であり、2019年6月には先端画像・低侵襲治療センター(AIMIT)を開設しました。

循環器内科が得意な疾患としては、虚血性心疾患、うっ血性心不全、下肢閉塞性動脈硬化症、大動脈弁狭窄症があり、高齢化が進む中件数も増加傾向にあります。 私は低侵襲で技術の進歩も著しい心血管カテーテル治療が好きで、チームとしてもカテーテルによる心血管系疾患の治療に力を入れています。

当院は兵庫県から「新型コロナウイルス感染症重点医療機関」に指定されており、COVID-19により入院を必要とする患者さんを受け入れています。 12床のコロナ専用ハイケアユニット(CHCU)を設けており、最近では県の依頼で時限的な軽症病棟も立ち上がりました。 現在私は、当院のCOVID-19チームのリーダーも務めています。

社団医療法人三栄会ツカザキ病院

社団医療法人三栄会ツカザキ病院 内観

課されたミッション:新型コロナを迎え撃て!

全スタッフが自律的・安全に取り組むCOVID-19診療チームを目指す

代に降って沸いた新型コロナパンデミック。未知のウイルスにより世界中が災禍と大混乱に見舞われました。 わが国でも全国的にクラスターが多発し、多くの病院で入院制限がかかるなど、医療現場は大きな影響を受けました。 当院でも、予定されていた手術や検査が次々に延期されました。こうした異常事態の真っただ中のある日、院長から廊下で呼び止められました。 「COVID-19の診療チームを立ち上げてください。」「えぇっ?」循環器内科の診療再開に集中したい思いで頭が一杯だった私は戸惑いました。 院長は続けます。「新型コロナにやられっぱなしではいられません。私たちの旗印『地域の急性期・救急医療』の通常診療を維持するためにも、 COVI D-19を迎え撃ち、制しなければなりません。」幼少期の経験から培われた私の医師としての信条に、スイッチが入りました。 気が付くと、COVI D-19チームリーダーとして、無我夢中で挑んでいました。

対策づくり・チームづくりは困難を極めました。 我々が通常携わる医療は、日々進歩し、新しい治療や薬剤が登場するとはいえ、おおよそ基礎が確立されています。 新型コロナパンデミック対応は、いわば道なき道でした。国内も海外も、医療現場には未知の恐怖、混乱と多忙が広がるばかり。

「機器選択からシステム、チーム作りは、楠山先生が思うように進めてください」院長からのミッションは、ゼロからイチをつくる、途方に暮れかねない、とてつもなく壁が高い挑戦でした。 私の脳裏に、過去に担当したプロジェクト「グループ施設ツカザキ記念病院から当院への循環器内科の移転」の記憶が蘇りました。あの時と同じだ。 新しいものを作り上げる仕事にはルーティーンの業務とは異なる苦しさと楽しさがある。同じ目標を目指せる人との出会いがあり、逆に離れていく人がいます。 あのような大プロジェクトは最初で最後と思っていた私に、まさか再びこのような挑戦が巡ってくるとは。

一人でスタートしたCOVID-19チームでしたが、他科の先生や私の所属する循環器内科の後輩たち、コメディカルのスタッフたちも、意義を理解しリスクを乗り越えて、 次々と参加してくれました。現在は医師7人、看護師17人、薬剤師2人、リハビリテーション(臨床心理士含め)6人、臨床工学技士2人、栄養科1人の計35人のチームで、 日々の診療に取り組んでいます。私は、未知の世界へ一歩を踏み出す勇気を持つことで、人生が大きく変わると信じています。

分からないこと尽くしの中でも、全スタッフが自律的・安全に取り組むCOVID-19診療チームを目指そう、方向は定まりました。 この難題に挑戦する機会と、思いを共有する同志を得られた私は、本当に運に恵まれています。

COVID-19診療チーム

CHCU(コロナ専用ユニット)

エクスプレスi ~造影検査前の腎機能評価を 30秒に短縮する簡易メーター

緊急造影や緊急カテーテル検査時の時間短縮が治療に大きなメリット

当院でエクスプレスiが最初に導入されたのは救急外来でした。当院では脳神経外科の診療を積極的に行っているため、血管造影や造影CTなど、造影剤を用いる検査が多く実施されます。 造影剤を使う際には、事前に腎機能の状態を把握することが大切です。 緊急性の高い場合には腎機能の状態に関わらず造影を行うこともありますが、多少の時間的余裕がある場合には検査を行い、 安全に造影剤を使えるかどうか判断します。

しかしながら検査室での検査には30分から40分程度の時間がかかり、その時間が症例によっては生死を分けることもあります。 そうした迅速に腎機能を把握したい症例に、エクスプレスi を用いてクレアチニン値を測定しています。ここでの目的は、腎障害を招かず造影検査が行えるかどうか判断するためエクスプレスiで スクリーニングを行うことなので、詳細なデータは必要ありません。 エクスプレスiを使えばクレアチニン値が30秒で画面に表示されます。 すなわち、検査室からの検査結果を待つ30分から40分の時間を削減できることになります。これだけ多くの時間を稼げることのメリットは大きく、エクスプレスi を導入することとなった大きな理由です。 私自身も、循環器内科において、緊急カテーテル検査を施行する際に腎機能の状態を早く知りたいときにはエクスプレスiを使用しています。

クレアチニン測定装置「スタットセンサー エクスプレス i クレアチニン」(医療機器届出番号 13B1X10094003012)

指頭血から測定可能な迅速eGFR値が、コロナ病棟での腎機能検査・投薬ワークフローのピースを埋めた!

抗ウイルス剤投与時に必要な定期的な腎機能検査

院長のアドバイスもあり、私たちは、COVI D-19の診療にもエクスプレスiを活用することにしました。私たちはCHCUの入院患者さんの多くに、 抗ウイルス薬レムデシビル(販売名:ベクルリー点滴静注用100mg)を使用しています。レムデシビルの使用において注意しなければならないことの一つに腎機能障害があります。 レムデシビルは添加剤による腎機能障害を生じさせることがあるため、投与前および投与開始後の定期的な腎機能検査が必要であり、患者の状態に変化がないか、十分にeGFR値を観察することが求められています 1)2)。 レムデシビルの投与期間については総投与期間10日までを条件に個々の患者背景に応じた判断が行われますが、COVID-19肺炎がある場合は原則として5日間 1)2)3)、 期間中は繰り返しeGFR値で腎機能検査を行い、悪化していれば早期に発見して対応しなければなりません。

一方で、COVID-19の診療には、通常の診療にはない様々な制約がかかります。採血時の感染予防策としては通常なら手袋とマスクをする程度ですが、COVID-19の診療ではゴーグルやフェイスシールド、 マスク、長袖ガウン、帽子などの個人防護具(PPE)を着用し 3)、手袋を二重にした状態で行います。シールドが曇り、手袋で指先が不自由になり、体の可動範囲が制限されると、慣れているはずの採血時の穿刺も、 やりにくく怖いものにさえなります。このような状況で採血を行うこと、そして血液サンプルをエリア外に持ち出すことは、ワークフローが厳格かつ複雑なCOVID-19の診療においては、医療従事者の大きな 負担となり、リスクを増すことになります。そこで、腎機能の経時的なフォローアップを容易に行えるよう、COVID-19病棟にエクスプレスiを導入しました。

エクスプレスiを使えば、ランセットによる指先穿刺で迅速に腎機能を判断するクレアチニン値とeGFR値を得られます。 通常の採血管採血を行う場合に比べて採血時の針刺しリスクが低減し、ワークフローが格段に安全で楽なものになります。 治療において重要な情報である腎機能について、採血管を使うことなく手軽にeGFR値を得られるのは大きなメリットです。

現在ではレムデシビルの適応が拡大し、重症化リスク因子を有するなど本剤の投与が必要と考えられる場合は、軽症の患者さんにも使用できるため、エクスプレスi が有用性を発揮する場面がますます拡がっています。 2)3)エクスプレスi を使う際は、クレアチニン値から、換算表を用いてeGFR値へ換算します。 COVI D-19病棟では、看護師が、エクスプレスiでのクレアチニン測定結果を基に、壁に貼られた換算表を参照し、eGFRの値を出してくれています。

エクスプレスiというピースを埋め込むことによって、患者の初診時、入院時の継続的な毎日の腎機能検査において、CHCUに入った看護師が、CHCUから出たり入ったりすることなく、 また、血液サンプルをエリア外に持ち出すことなく、腎機能検査から治療薬投与までのワークフローを完結できるようになりました。 COVID-19の診療を維持継続するためにも、医療従事者の安全を確保することが重要な課題です。エクスプレスiは穿刺時の針刺しリスクも大きく低減させます。 パンデミックという特殊な状況において、エクスプレスiは様々な観点で医療現場を支えていると感じています。

指頭血からの穿刺

クレアチニン測定の様子

診療に使いやすい簡易・迅速なeGFR値による腎機能検査の今後の可能性

腎機能を見る際に、クレアチニン値には年齢や性別により基準範囲の相違があります。 一方eGFRは、年齢や性別も取り込んで一つの物差しで見られる指標です。慢性腎臓病(CKD)の診療ガイドラインにおける重症度分類にもeGFRが基準として使われています 4)。 レムデシビルの適応が拡大した話をしましたが、最近は、その他にも、eGFR値で腎機能を見る薬剤が増えてきています。エクスプレスiはクレアチニン値を表示します。 eGFRは計算して求めることもできますが、換算表を見ればすぐにeGFR値がわかり、便利なツールとなっています。

当院では救急外来で1~2台、COVID-19病棟で1台のエクスプレスiを使用しており、合計2~3台が常時稼働しています。 救急外来では必ず採血を行うので、エクスプレスiで測定するための血液は採血した血液から分注したものを用います。 一方、COVID-19病棟では採血を省略できる点が最大のメリットなので、当日に採血の予定がない限り、指先穿刺をしています。 看護師が穿刺や測定を行いますが、その手技は、日ごろ慣れている血糖値測定とよく似ているため、難なく違和感なく使えているようです。

eGFR換算早見表

患者さんも医療従事者も ハッピーにする仕事を目指して

私は、診療においては、第一に「患者さんがハッピーである」ことを信条としています。例えば私は経皮的冠動脈インターベンション(PCI)などのカテーテル治療を積極的に行いますし、 当院には心臓血管外科もあります。このように様々な選択肢があるときには、患者さんがハッピーかどうかを軸に治療方針を考えます。 やはり手術などへの関心が強い医師は多いだろうと思いますし、私にもそのような時期がありました。 しかし、経験も積み重ねた今では、特に高齢の患者さんに対しては、患者さんがハッピーかどうかという視点を持ち、樹形図のように可能な方策を俯瞰したうえで、治療を選択していくのがよいと考えています。 COVID-19への取り組みでも同様です。当初は病院や医療従事者の多くに、躊躇がありました。 しかし、私は「この仕事、他の人がやらないなら自分がやろう」と自然に決意しました。困っている患者さんがいるなら、困難な仕事でもベストを尽くすことが、医師としてやるべき大事なことです。

未曽有の新型コロナ禍に対処する上では、COVID-19病棟の立ち上げ当初から、スタッフがそれぞれの立場から自律的に考えて行動することを目指して進めてきました。 スタッフに時々「私たちは同じ夢を見られますか」と聞きます。目標を共有して仕事をすることで、患者さんがハッピーになるために、各自が自律的に役割を果たせるようになると思います。 COVID-19病棟で日々課題を解決しつつ働く中で、新たに頭角を現わしてきたスタッフもいますね。 こうして自律した仕事ができるようになれば医療従事者もハッピーですし、同僚が人間的に成長することで私もハッピーになります。 今後も患者さんと医療従事者双方がよりハッピーになるよう、仕事を継続していきたいと考えています。

私は、幼いときに眼の大きな手術をし、長いあいだ眼科に通いました。そのときの眼科医の先生や看護師さんたちが治してくれたおかげで、私の人生は変わりました。 医師を目指すきっかけでもあります。皆さんが自分にしてくれたことに対して、医師として医療で恩返しをするという想いを、ずっと心に抱いています。 そんな私も卒後24年になりました。フィジカルの面では5、6年目までの若手のときと同じようには動けません。それでも、医師としてさらに上を目指したいという思いを持ち続けています。 そろそろ私の頭の中にある診療・手術や仕事の仕方についてのレシピを新しいノートに書き写し、次の世代の医師やスタッフにつないでいくことも考えながら、 これからの医療への取り組みを、さらに充実したハッピーなものにしていきたいですね。

楠山 貴教 先生

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