ヒト多能性幹細胞は心筋細胞を含む様々な細胞に分化する能力を有するため、心臓再生医療への応用が期待されている。一方で、ヒト多能性幹細胞を用いた心臓再生医療における臨床応用を実現化するためには多くの課題を克服する必要がある。
その最も重要な課題の1つは、分化後に残存する未分化幹細胞を取り除き、効率よく心筋細胞のみを作製する技術の確立であった。我々はこれらの課題に対して、ヒト多能性幹細胞と分化心筋細胞における細胞内外の代謝プロファイルを詳細に解析することにより、培養環境により分化後に残存する未分化幹細胞を取り除き、分化心筋細胞のみを効率よくかつ大量に純化精製するという画期的手法を構築することにより克服することに成功した (Cell Stem Cell 2013, Cell Metabolism 2016, Stem Cell Reports 2017)。さらに、我々は多能性幹細胞特異的な代謝機構に着目することにより、残存する未分化幹細胞を特異的に除去する手法を確立し(iScience 2020, STAR Protocols 2022a)、これまで確立してきた培養液による純化精製法との組み合わせによりさらに安全な心筋細胞の作製が可能となった。
しかしながら、依然として課題が存在する。それは、ヒト多能性幹細胞を用いた再生医療における臨床応用さらには産業化を実現化するためには、大量の細胞を作製する必要があり、それに伴い多くのコストが発生することである。この課題を克服するためには、ヒト多能性幹細胞を安価かつ効率よく作製する必要がある。一方で、ヒト多能性幹細胞における従来の培養液は、未分化維持および増殖において最適な条件ではなかった。そこで、我々はヒト多能性幹細胞が増殖する際の細胞外の代謝プロファイルを詳細に解析することにより、必須アミノ酸の1つとして知られるトリプトファン代謝を制御することにより、ヒト多能性幹細胞の増殖が促進されることを見出した (iScience 2021, STAR Protocols 2022b)。
これらの技術開発により、高品質の心筋細胞を大量に作製することが可能となり、マウスやラット、ブタ等を用いた細胞移植治療においても、安全性と有効性が確認されている(J Heart Lung Transplant 2019, JACC-BTS 2021)。
培養上清のプロファイル解析は、高効率かつ高品質な細胞の製造に限らず、細胞製造の際のモニタリングにも有用である。本講演では、培養上清プロファイル解析の生かし方について、我々の実例を交えて紹介したい。
日 時 | 2022年11月28日(月)14時00分~(Live/質疑応答あり) |
---|---|
会 場 | オンラインライブ配信 |
座 長 | 白木 伸明 先生 (東京工業大学生命理工学院 准教授) |
演 者 | 遠山 周吾 先生 (慶應義塾大学循環器内科 専任講師) |
お申込みにあたり、ノバ・バイオメディカル社の個人情報保護方針(こちら)についてご同意いただいたうえでお申込ください。