生体触媒を用いた物質生産において、目的の物質や細胞の生産性や収率を得ることができる培地を見出すことは、経済性を担保する上で重要なポイントのひとつである。培地の最適化は古典的には1つの因子ごとの影響を実験的に検証するone-factor at a time (OFAT)により探索される。しかしながら、多様な成分を含む培地成分のすべてを検証するには、多くの時間と手間が必要になる。1970年代以降は統計学的な手法、例えば、田口メソッドを代表とする実験計画法(Design of Experiment (DoE))や表面応答法(RSM)による培地最適化に関する多くの研究が報告されている。DoEは、直交表による実験条件のデザインと分散分析もしくは重回帰分析を用いる。RSMは加えて多項式へのフィッティングと3次元グラフによる2変数の最適化の組合せを用いる。多くの研究で用いられているが、重要変数選択と重要変数による回帰モデル解析および検証といった構成がほとんどで、複数回の培養実験を必要とする。重回帰の発展形であるRasso回帰やRidge回帰は正則化項を加えることで、強く相関している独立変数による多重共線性問題に対応した解析法である。これらの手法は各独立変数の相関係数を比較することで、従属変数へのインパクトを容易に解釈できるため、解釈性が高い。重回帰分析の代わりに決定木(DTree)を用いた相関解析やそのアンサンブル解析であるランダムフォレスト(RFR)や勾配ブースティング(GBR)、ニューラルネットワーク(NN)等の教師つき機械学習モデルを採用することもできる。これらのアルゴリズムは予測精度が高いことが特徴であるが、DTree、RFR、GBRはクラス分類を目的としたアルゴリズムであるため、学習データよりも大きな従属変数(改善された培養結果)が得られない。NNはブラックボックス関数と呼ばれ解釈性が乏しい。しかしながら、近年、NNとブラックボックス関数を最適化できる遺伝的アルゴリズム(GA)を用いた培地や培養条件の最適化に関する研究が複数報告されている。演者はより効率的な培地最適化法を検討するため、深層学習(DNN)およびベイズ最適化(BO)を組合せて、大腸菌による緑色蛍光タンパク質(GFP)生産系をモデルとして、31種類の成分を含む合成培地の最適化について検討したところ、ラテン方格により設定した81条件実験データを基に、2回のDNN-BOにより、GFP生産効率を向上させることに成功している。また、分注ロボットやプレートリーダーを活用した培地最適化の効率化についても検討している。これらの具体的な事例を含めて、AI技術を活用した培地最適化の展望について紹介する。